「墓じまい」とは?

墓じまい」とは、すでに建っている「お墓」を解体・撤去し、お墓のあった土地を更地にして管理者(お寺や墓苑)に返却することをいいます。手元には、もともとお墓に入っていた先祖の遺骨が残ります。
墓じまい」には、「改葬」と「墓終い」の2種類の意味があります。

新たな場所にお墓を設営する場合を「改葬」といいます。いわゆるお墓の引っ越しです。遠方にあった先祖代々のお墓を、近くの霊園に移動させるような場合です。

一方、「墓終い」は、古いお墓をなくし、永代供養墓にしたり散骨する等、お墓自体を無くしてしまうことを意味します。

「墓じまい」の増加理由

最近の傾向として「墓じまい」が増加しているようです。
これには、日本社会の世帯構成の変化(少子化や超高齢化)、そして核家族化・過疎化が大きく影響しているものと思われます。
「墓じまい」が増加している理由は、主として次の2点と言われています。

①お墓を継ぐ人がいない

核家族化や少子高齢化が進み、子供がお墓を継ぐのが難しい(子供が娘一人で、かつ嫁いでいる等)状況や、子供がいないというような場合です。従来の日本のお墓は、「〇〇家の墓」のように家名が刻まれ、家族や親族の遺骨を納めて、子孫へと受け継ぐ「家単位」の継承を基本としていました。これは、明治時代に制定された民法の「家制度」の名残で、家督を相続する長男が、お墓も同時に受け継ぐという考え方に基づくものです。
戦後の民法改正に伴い「家制度」そのものが見直され、「お墓」についても意識の変化が少しづつ生まれてきたように感じます。
令和の時代になり、65歳以上の高齢者世帯が日本の総世帯の30%(約1,500万世帯)になっています。さらに、その内の約30%(50万世帯)が単身世帯(独り暮らし)という状況です。

②遠方に住んでいる

故郷を離れて都会で家庭を持ち、時間の経過とともに実家のお墓を守っていた両親も亡くなり、お墓参りが難しくなって来た、というような状況です。上記の高齢化による要因が大きいと思われますが、「墓じまい」後に、自宅の近くに新しく「お墓」を作り(改葬)、お墓の引っ越しを考える方も増えているようです。

墓地等に関する統計データ

次の統計は、2000年から2020年までの20年間の「墓地等に関する統計データ」です。
毎年のデータが公表されていますが、次表は5年毎の日本全国の「墓地」「火葬場」「納骨堂」の各々の施設数実績の推移です。
※日本政府統計データより

年度墓 地火葬場納骨堂
2000年863,428箇所7,338箇所11,550箇所
2005年873,441箇所5,119箇所11,841箇所
2010年873,790箇所4,704箇所11,810箇所
2015年865,718箇所4,307箇所11,903箇所
2020年868,299箇所4,082箇所13,038箇所
日本の墓地・火葬場・納骨堂の推移(日本政府統計データより)

上記の墓地数は、墓苑の数量で墓石数とは異なります。したがって、墓じまいの実績データとは言えません。ただし、約20年間で納骨堂が、約1,500箇所増加している状況から遺骨の納め方が変化していると思われます。

墓じまいの流れ

一般的な「墓じまい」の流れ・進め方について簡単に記載します。

ステップ1:親族と話し合う。

「墓じまい」を行うに際して、最初にすべきことは、事前に関係する親族全員と「墓じまい」について話し合いをすることです。
あなたが、なぜ「墓じまい」を思いたったのかについて丁寧に説明し、納得して貰う必要があるからです。親族の中には「お墓は代々受け継いでいくものだ。」という考えの方がいるかもしれません。また、定期的にお墓参りに行き、先祖の遺骨に敬意や心の拠りどころにされている方がいるかもしれません。「お墓」という形にこだわる方も多くいます。親族との話し合いをすることなく、勝手に進めてしまうと後日トラブルにつながりかねません。それゆえ、話し合いに臨む際には、既存のお墓に納められている遺骨が何体入っているのか確認しておき、「墓じまい」をした後は、それらの遺骨をどうする予定なのかも考えておくと良いでしょう。最終的には、決定した内容を覚書などにしておくと後日のトラブルを避けることができます。

ステップ2:お墓の管理者に連絡する。

親族との話し合いが終わり「墓じまい」をすることが決定したら、お墓の管理者である霊園や寺院に意向を伝えます。この時、長年にわたって檀家としてお世話になってきた寺院が管理者の場合、伝え方によってはトラブルに発展することがあるので注意が必要です。
寺院に対しては「離檀料」を支払うのが一般的です。寺院によっては「離檀料」を取らない所もあるようですが、一般的には法要料一回分程度(5万~20万円)が相場のようです。檀家としてつき合いをしてきた年数や関係性にもよりますが、「墓じまい」を行うに至った経緯や事情を丁寧に伝えて理解を求めましょう。「離檀料」に法的な根拠はなく、支払に義務はないと言われていますが、今までお世話になったお礼の気持ちでお渡しするものです。高額な請求を受けて断りきれない場合は、ご相談して下さい。
なお、「墓じまい」の際は、管理者(霊園や寺院)から「埋葬証明書」を発行してもらう必要があります。

ステップ3:遺骨の受け入れ先を決める。

ステップ1の親族との話し合いで、すでに「墓じまい」をした後の「遺骨」の受け入れ先については検討されていることと思いますが、
別の一般墓(改葬)、納骨堂、永代供養の施設への改葬、樹木葬、散骨、手元供養等々についてです。
自宅の近くに新しくお墓を作る(改葬)場合は、新規のお墓の管理者に「受入証明書」を発行してもらう必要があります。

ステップ4:墓じまいの依頼先を決める。

お墓を解体・撤去して更地にする作業を個人で行うのは難しいと思います。供養や諸手続きをスムーズに行うためにも、「墓じまい」の作業は、代行している石材店や専門業者に依頼するのがおすすめです。依頼先を決定する際は、複数の業者から見積りを取り、費用とサービス内容を比較・検討されると良いでしょう。霊園によっては、指定業者が決められている場合もあります。事前にお墓の管理者に確認しておく必要があります。墓石の撤去・解体費用ですが、墓石の大きさや撤去方法にもよりますが、1㎡あたり約10~20万円が相場です。この費用には、「墓地から墓石を撤去して更地にした後、所定の場所で墓石を処分する。」までの工程が含まれています。

ステップ5:自治体で「改葬許可証」を発行してもらう。

お墓の管理者から発行してもらった「埋葬証明書」、改葬先から発行された「受入証明書」と併せて、現在のお墓がある市区町村に「改葬許可申請書」を提出し、「改葬許可証」を受け取ります。改葬許可申請書は、自治体の窓口やホームページ等からダウンロードすることが可能です。申請書には、改葬する故人の本籍地、住所、氏名、性別、死亡年月日、火葬の場所とその年月日、改葬の理由、改葬先、申請者の個人情報と故人との関係などを記入する必要があります。記載内容は、各自治体によって多少異なりますが、概ね上記の内容です。
なお、この手続きは、散骨や手元供養の場合には必要ありませんが、場合によっては改葬許可申請書を求められることがありますので、その際は、改葬理由欄に「自宅供養のため」等を記載すると良いでしょう。

ステップ6:遺骨を取り出す。

改葬許可証を入手した後は、お墓に入っている遺骨を取り出すことが出来ます。
お墓から「遺骨」を取り出す際には、僧侶に来てもらい故人のお墓の「閉眼供養」を行います。この閉眼供養の際に読経をしていただいた僧侶に対して「お布施代」を支払うのが一般的です。お布施代は、3万~5万円が相場になっているようです。
長年お墓に入っていた遺骨は、傷みやすい状態になっています。そのため、遺骨をきれいに洗骨したり、細かくしたりする作業が必要になる場合があります。洗骨はご自分でも出来ますが、大切なご先祖様の遺骨を守るためにも、専門業者に依頼するのがおすすめです。
専門業者に依頼する時の費用は、1体2万円程度が相場です。散骨するために遺骨を粉にする(紛骨)場合の費用は、1万円程度が相場のようです。

ステップ7:墓地を更地にして管理者へ返還する。

遺骨の取り出しが完了したら、お墓を解体し墓石を撤去します。地上の墓石だけでなく、土中の基礎工事部分まで撤去されたことを確認します。整地されて更地になったら、管理者に土地を返還して「墓じまい」は完了です。

「墓じまい」後の選択肢

墓じまいは「今あるお墓を撤去する」ことですが、お墓を撤去して終わりではありません。取り出した「遺骨」を、どのように供養するか、先々まで見越して無理のない選択をして下さい。
「墓じまい」の目的に沿った、様々な選択肢があります。家族や親族にとって、故人を偲びやすく負担の少ない方法が良いでしょう。「お墓」の意味も、時代とともに変化しています。

一般墓への改葬(お墓の引越し)

お墓を持つことに不満はなく、物理的にお墓までの距離が遠くて維持・管理が難しいという理由から「墓じまい」(改葬)を選択される方もいます。
このような方は、新たな墓地や霊園の一般墓に改葬する選択肢が良いでしょう。
自宅から近くて、いつでもお墓参りが出来る霊園や墓地を購入手配されるのが良いでしょう。

納骨堂への改葬

納骨堂は、天候を気にせずお参り出来る室内型のお墓です。墓地不足の都会を中心に、最近増加しています。いわゆる、マンション型のお墓です。骨壺を納めるだけのシンプルなロッカー型から、上の段に位牌などを置いて下の段に遺骨を納める仏壇型、参拝スペースでカードキーを差し込むと遺骨が運ばれてくる搬送タイプなど、色々な形態の納骨堂があります。お独りのタイプ以外に、家族で納骨出来るように広いスペースを確保したい場合等、バリエーションもありますので、費用も含めてご相談されるのが良いです。
最近は、墓地と併せて納骨堂を併設している寺院も誕生しています。
お墓の掃除や除草等が必要なく、気軽にお墓参りがしたい方に向いています。

樹木葬

樹木葬も、近年増加している形態です。
霊園や寺院で、墓石の代わりにシンボルツリーを植えて、その下に遺骨を埋葬する方法です。自然に近い埋葬を目指すならば里山型になりますが、お参りのし易さや管理面を優先するのなら、霊園内の一部に設けられた樹木葬がおすすめです。樹木葬の場合は、合祀にする場合が、ほとんどだと思われます。

散骨葬

散骨は、遺骨を2mm以下の大きさに紛骨し、海や山に撒く方法です。
散骨葬をされた有名人では、石原裕次郎(1987年)、石原慎太郎(2022年)、横山やすし(1996年)、乙羽信子(1994年)、勝新太郎(1997年)等々の方がいます。
それぞれ故人の意思にしたがってなされた弔い方だと考えます。
散骨葬は、法的に違法ではありませんが、どこで行っても良いというものではないと思います。自治体によっては、条例で禁止している市町村もあります。
安易に自己流で散骨を行うと、周辺の利用者や管理者とトラブルにつながる可能性がありますから注意して下さい。

永代供養

遺骨を改葬しても、年齢や健康上の理由、お墓の継承者がいない等で長期に渡る維持・管理が難しい場合には、お寺や霊園にお墓の管理を任せられる「永代供養」を選ぶのも選択肢のひとつだと思います。一般墓の他に、納骨堂、樹木葬等に永代供養とセットになったものもあります。関係者に相談されると良いでしょう。
なお、永代供養といっても、期間の定めが無く永遠に供養してくれるわけではありません。霊園によって異なりますが、三十三回忌法要が終わると合祀になるのが一般的に採用されているようです。管理者にご確認下さい。

手元供養

遺骨は、必ずお墓に納めなければならないというきまりはありません。
小さくて見栄えの良い容器に遺骨を入れて自宅で管理・供養する方法もあります。
ただし、手元供養をしていた方に万一のことがあると、その後の遺骨の行き場がなくなり、ご家族が再び遺骨の行き先を検討しなければならなくなる可能性があります。
将来を見据えて、供養の方法を考えておくことが大切です。

まとめ

「墓じまい」について、その流れや手続きのポイントの概略を記載しました。墓じまいを検討する際の参考になれば、幸いです。
「お墓」については、私も考えなければならない立場です。実家のお墓は、長兄が墓守りをしてくれて、将来は長兄の息子さん(甥)が継承してくれるようです。私は、末弟ですので、自分の墓をどうすべきか悩むところです。まだまだ先のことと優先順位がどんどん後ろになっているのが正直なところですが、家族をまじえて「お墓」の意味や価値を検討しなければいけない時期なのかもしれません。
こんな私ですが、「墓じまい」についてのご相談があれば、お気軽にお問合せ下さい。他人事ではなくご相談にのります。