日本の医療は、その水準、体制、制度において、世界の中でもトップクラスだと思います。国民皆保険制度と相まって、世界の中で一番の長寿国に位置しているのが、その裏付けではないでしょうか。
長寿の数値には、平均寿命と健康寿命の2種類がありますが、どちらにおいても日本は世界の中で一番です。男女の平均健康寿命は、トップの日本は、74.1歳です。ちなみに2位は、シンガポールで73.6歳となっています。(WHO:2022年版世界保健統計より)
「日本は、超高齢社会になった。」「社会保障費は、国の歳出の中で最大だ。」等々が言われていますが、「日本人は、恵まれている社会で生活している。」と言い換えても良いように思います。
そのような社会環境の中で、医療従事者の方のお手伝いが、少しでも出来れば幸いだと考えています。
病院の開業申請
日本の医療施設の状況
日本の医療体制を知るうえで、全国の病院等の施設数の推移を見るのも指標のひとつかと思い調べてみました。全国の病院、全国の診療所、そして全国の歯科医院の流れは、以下の状況です。約20年間の推移ですが、ひとつの傾向が読めると思います。
(出典:厚生労働省医療施設動態調査より)
年度 | 病 院 | 診療所 | 歯科医院 | 総合計 |
2002年 | 9,187 | 94,819 | 65,073 | 169,079 |
2005年 | 9,026 | 97,442 | 66,732 | 173,200 |
2008年 | 8,794 | 99,083 | 67,779 | 175,656 |
2011年 | 8,605 | 99,547 | 68,156 | 176,308 |
2014年 | 8,493 | 100,461 | 68,592 | 177,546 |
2017年 | 8,412 | 101,471 | 68,609 | 178,492 |
2020年 | 8,238 | 102,612 | 67,874 | 178,724 |
上記の一覧表の通り、約20年間の大きな流れは、いわゆる総合病院が減少傾向(約950施設減少)にあり、表に記載がありませんが、各病院のベッド数合計は、2002年から2020年の間に135,067床も減少しています。一方、診療所は、増加傾向にあり、約20年の間に約7,800施設が増加しています。また、歯科医院は、一時の増加から減少に転じているように感じます。総合病院の医師不足や経営面での厳しさ等も要因のひとつと言えるでしょうが、医療体制の分業化が進んでいるとも解釈出来るでしょう。
最近は、診療所・クリニックで診療科目の「専門化」傾向が拡がっているようです。いずれにしても、医療先進国=日本を支えている医療従事者の方に感謝したいと思います。※コロナ禍での対応は、ほんとうに大変だと感じています。
病院の新規開業申請について
行政書士として、医療関係者の方のお手伝いが出来るのは「病院新規開業の申請手続き」及び「開業後の変更申請手続き」かと思います。
ベッド数が20床以上の病院は、一般診療所と比べると申請書に添付する資料も膨大になります。また、病院の規模にもよりますが、病院施設の構造においては病室、診察室、検査室、その他の施設の詳細図面の提出が求められます。さらに、従事される医師、看護師、保健師、薬剤師、放射線技師、その他の資格者、病院職員等にいたるすべての名簿提出迄必要となります。専門診療設備機器等に関しても、もちろん資料提出が求められます。これらの開業申請業務は、新規病院開設の際の、ほんの一部の課題かもしれませんが、お手伝いさせていただけたら幸いです。
病院開業の際の必要な手続きと書類
申請に際しては、行政機関の窓口での事前相談は必須のことですが、一般診療所と異なり以下の手続きが必要となります。
1、病院開設許可申請書の提出と認可
一般診療所の場合は、病院開設届の提出(これも簡単ではありません。)で済みますが、病院の場合は、先ず「開設許可」を受ける必要があります。書類の列挙になりますが、行政機関に提出する書類は、概ね以下の内容となります。
提出書類名 | 添付書類 |
・病院許可申請書 | 周囲見取り図、敷地の面積資料、敷地平面図、建物構造概要書、法定施設の概要書、病床種別ごとの病床数、放射線設備の概要書、精神病・感染症病室がある場合の概要書、汚水排出状況報告書、等 |
・従業員の標準員算定表 | 医師、看護師、薬剤師、看護補助者、栄養士、等の標準設置人員数表 |
・病室、病床一覧表 | 一般病室の数量・面積・病床数(療養施設・結核・精神病・感染症病室を設ける場合は、病室の数・面積・病床数) |
・従業予定者名簿 | 医師・歯科医師の名簿(担当診療科目、氏名、生年月日、免許番号、勤務日及び時間、等) 看護師・准看護師・助産師・保健師の名簿(資格、氏名、生年月日、免許番号、勤務日及び勤務時間、等) 薬剤師・栄養士・放射線技師・その他の資格者(資格、氏名、生年月日、免許番号、勤務日及び勤務時間、等) 看護補助者・その他病院職員(職種、氏名、勤務日及び勤務時間、等) |
申請書及び添付書類は、正副2部必要となります。 病院開設許可の申請手数料は、49,200円です。(京都府の場合)
なお、この病院開設許可申請の許可年月日及び許可番号が、次の「病院構造設備使用許可申請」を行う際に必要となります。
2、病院構造設備使用許可申請書の提出と認可
病院の開設許可申請は、病院という施設のハード面(建物の規模・構造・設備や医療機器の仕様等)、及びソフト面(医師・他のスタッフの免許資格や人員数等)の両方を法令の規定に準じているか審査される内容となっています。
一方、病院構造設備使用許可申請の方は、ハード面(建物の規模・構造・設備や医療機器の仕様等)を中心に申請内容と実際の現地施設の状態を検査してもらうための申請といえると思います。提出書類は、以下の内容となります。
提出書類名 | 添付書類 |
・病院構造設備使用許可申請書 | 周囲見取り図、敷地平面図、建物平面図、建物構造概要書、法定施設の構造設備概要書、病床種別ごとの病床数、 放射線設備の概要書、精神病・感染症病室がある場合の概要書、汚水排出状況報告書、等 |
・病室・病床一覧表 | 一般病室の数量・面積・病床数(療養施設・結核・精神病・感染症病室を設ける場合は、病室の数・面積・病床数) |
申請書及び添付書類は、正副2部必要となります。 病院構造設備使用許可の検査手数料は、51,600円です。(京都府の場合)
検査に合格して病院の構造設備使用許可の認可を受けると、病院の開業が可能となります。
3、病院開設届の提出
病院開設届は、病院を開業後、10日以内に提出が必要です。
病院開設届は、以下の添付書類が必要となります。
提出書類名 | 添付書類 |
・病院開設届 | 医師・歯科医師の免許証の写し及び履歴書。医師でH16年4月1日以降、歯科医師でH18年4月1日以降の免許取得者は、臨床研修終了登録証の写しが必要。その他必要に応じて、薬剤師免許証の写し及び履歴書、麻酔科標ぼうの許可証の写し、勤務先の医療機関の承諾書等。 |
病院開設届は、病院開業後すぐに提出しましょう。その際、医師・歯科医師・薬剤師等の免許証の写しを添付書類として提出しますが、原本照合が求められています。そのため、必ず「免許証の原本」を持参して下さい。
以上の3ステップが終了して始めて「病院開設許可申請の手続き」が完了したといえます。
開業後の申請手続きについて
病院の開業は、誰でも行って良いわけではありません。国の許可が必要な事業となります。そのため、認可された法人・個人のみ営業することが出来る事業です。
そのため、開業以降に申請時からの変更や廃止等が発生した場合は、その都度「変更許可申請」や「〇〇届」が必要となります。注意して下さい。
以下、主な内容について列挙しておきます。
変更や廃止の内容 | 必要な申請書又は届出書 |
・病院の構造設備を変更する場合 | 病院開設許可事項中一部変更許可申請書、病院構造設備使用許可申請書 |
・病院の構造設備以外の事項を変更する場合 | 事前に変更許可が必要な内容(開設の目的、維持の方法、従業員の定員、敷地面積、平面図、病床数) |
・病院の構造設備以外の事項を変更する場合 | 事後に変更届が必要となる内容(開設者住所、氏名、名称、所在地、診療科目、外来診療標ぼう時間、管理者の 住所氏名、定款、寄付行為、汚水排出状況報告書記載事項、等) |
・病院が巡回診療又は巡回健診を実施の場合 | 巡回診療実施届、巡回健診実施届 |
・病院を休止、再開又は廃止したとき | 病院休止(廃止、再開)届 ※休止(廃止、再開)後10日以内 |
・病院の開設者が死亡(失踪宣告)したとき | 病院開設者死亡(失踪)届(添付書類として死亡診断書、又は戸籍謄本 ※死亡後10日以内 |
診療所の開業届
近年は、新規開業される診療所(クリニック)が増えています。しかも、診療科目の専門化が進んでいるようです。昔の「何でもどうぞ、すべて診察しますよ。」的な診療所から、「循環器」メインのクリニック、とか「糖尿病専門クリニック」等、診療科目を絞って、医師が、特定分野専門に診療する傾向になっているようです。
日本の少子高齢社会と相まって、専門医の需要は高まっています。
総合病院の診療科目の先生が、勤務医を辞められて「街の専門クリニック」として開業されるようなケースが増えているのかもしれません。そのような、専門クリニックは、大変人気があり、予約待ちの状態だというようなことを最近 良く聞きます。
診療所の開業手続き
診療所(クリニック)の開業手続きは、基本的に「病院の開業手続き」と同様の流れになります。規模の大きな総合病院の場合は、新設に関わる関係者も相当な人数になるのが一般的です。したがって、それぞれ分業してプロジェクトを進めるため、院長先生が全て判断して進めるようなことはありません。施設の建設工事や、病院スタッフの採用、医療機器メーカーや関係取引先との交渉等、専門の担当者が分担してプロジェクトを完成させます。
ところが、クリニックの新規開業の場合は、院長先生がほとんど全てのことを手配・段取りを進めることが多いようです。新しいステージへのチャレンジですのでやりがいもございます。しかし、院長先生の負担は、相当なものだと思います。行政書士が、応援出来る範囲は、行政機関に対しての「クリニック開業申請手続き」関係の業務に限られているかもしれませんが、新たな夢の実現に協力させていただければ幸いです。
開業時に必要な行政手続き
新規開業に際しては、様々な関係先の手続きがあると思いますが、行政機関のうち、診療所(クリニック)の開業に関わるのは、保健所、消防署、厚生局等が、主たる手続き先になると思います。
診療所の開業手続きは、個人開業の場合と法人開業の場合で提出書類が、一部異なります。ここでは、個人開業の場合を中心に記載することにします。(法人の場合についても提出すべき内容は概ね同じになります。)
1、診療所開設届
診療所の開設、入院設備の設置、その他許可が必要な場合は、管轄の保健所へ、必ず事前相談をして下さい。特に、新設診療所の場合は、平面図等の資料を持参し、法令に違反が無いかどうか確認しておく必要があります。診療所開設届は、基本的に開業後10日以内の提出となっていますが、検査で修正工事をしなくてはならない事になっては営業上も困る事態になります。
「診療所開設届」は、以下の書類を提出致します。
提出書類名 | 添付書類 |
・診療所開設届 | ①周囲見取図 ②敷地平面図及び敷地面積が分かる書類 ③診療所平面図及び診療所のある建物全体の延面積が分かる書類。 ④医師・歯科医の免許証及び履歴書 ⑤指定日以降の免許の場合、臨床研修修了書 ⑥その他必要に応じて薬剤師免許証の写し及び履歴書、 麻酔科標ぼう許可証の写し、賃貸借契約書の写し、勤務先医療機関の承諾書等。(注)免許証、登録証等は、原本提示が必要。 |
・診療所に病床(入院設備)を設ける場合
入院設備を設ける場合は、「診療所病床設備許可申請書」及び「診療所構造設備使用許可申請書」の提出が必要となります。許可を受ける迄病床の使用が出来ません。添付書類等は、開設届に準じます。
提出書類名 | 添付書類 |
・診療所病床設置許可申請書 | ①診療所平面図、②医師・歯科医の免許書③指定日以降の免許の場合、臨床研修修了書④業務従事者名簿(注)免許証、登録証等は、原本提示が必要。 |
・診療所構造設備使用許可証 | ①周囲見取図②敷地平面図③建物平面図④その他必要に応じて追加書類。 |
・エックス線装置を備え付ける場合
診療用エックス線装置、その他診療用放射線医療機器を設置する場合は、いずれも届出が必要となります。提出期限は、備付後10日以内です。
2,社会保険医療機関指定申請
お客様として来院される患者さんは、健康保険を使用するのが一般的だと思います。
診療所にて健康保険証を使うことが出来るようにするためには、保健医療機関としての指定を受けなければなりません。
「1、診療所開設届」が完了していないと、次の保険医療機関指定申請が出来ません。
また、保健医療機関の指定は、開業をする場所を管轄する厚生局に申請しますが、保健医療機関の指定日は、管轄の厚生局に事前に確認しておくのが無難です。指定日は、月に1回と決められているので、タイミングによっては、1カ月待たないとならない場合が発生します。ご注意下さい。
以下、保健医療機関指定申請の際に必要な書類を記載致します。
提出書類名 | 添付書類 |
・保険医療機関指定申請書 | ①連絡票・指定希望日記載票②使用許可証又は許可書若しくは届出書③保険医の氏名・登録の記号及び番号並びに担当診療科名を記した書類 ④③以外の医師・歯科医師の数を記載した書類⑤病床を有する診療所は、看護師、准看護士、看護保護者の数を記載した書類 ⑥その他指定の適格性等を確認するための書類(※下記のア〜キ) ア、診療日・診療時間 イ、開設者、管理者、保険医の免許証の写し ウ、管理者が他所に勤務の場合退職(予定)証明書又は承諾書 エ、法人の場合は法人登記簿 オ、賃貸の場合、賃貸借契約書等の写し カ、周辺図(近隣の保険薬局を記載) キ、平面図 【その他】社会保険及び労働保険への加入状況にかかる確認票 |
まとめ
病院開設許可申請、及び診療所開設届について、申請手続きの概略について記載しました。また、診療所開設届の欄では、保健医療機関申請の内容についても触れておきました。これから、診療所を開業される先生の参考になれば幸いです。
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